第4章 夢かうつつか?
「まず、幻覚・幻聴――総称して“意識障害”といいますが、その発現者の増加です」
紙を見る。
『一、意識障害者の異常増加』
なんともブッソーなタイトルだ。
「幻覚を見たり、幻聴を聞いたりする人がふえてる、ってことですね?」
「はい。急にぼーっとして、一切の刺激に無反応になったあと、それらの錯覚に反応する……これがだいたいのパターンです」
「どんな意識障害なんですか?」
「ほとんどが不快になるものです。しかし中にはそうではないものや、幽霊を見た、というものもあります」
「ゆ、幽霊ぃっ!?」
思わず声がうわずりビクついてしまう。
私の顔は引きつっているに違いない。
幽霊様には本当にお帰り願いたい。
「困ったことに、気のせいだと片付けられないものばかりで」
私の反応をしっかり確認した上で、なおも続ける。
「誰がいつ見ても、同じところに同じように“ソレ”が見えるんです」
「……」
「おかしいですよね? しかし霊媒師やその筋の方々は、なにもないと仰る」
「…………」
「ですが、見えるんですよ。いつ、誰が、どのように見ても」
「………………」
「っとすみません、怖がらせてしまいましたか?」
「……………………いえ」
蚊も聞こえないような返事をする。
心無しか、菊が楽しそうに見えた。気のせい、そう気のせいだ。気のせいだと信じさせて。
「あと酷い場合は自分以外全員が死んでいたり」
「それロシアだけじゃないですか!?」
「あとは色彩感覚が物凄い状態になったり」
「それもアメリカだけじゃないですか!!?」
「あとひたすら結婚を迫る女性に鬼も泣く形相で追いかけられたり」
「それ絶対ロシアだけだ!!!」
よくわからない応酬だったが、酷い意識障害を起こすことは、十分すぎるほどわかった。
私の反応で、私のこの世界に対する知識の度合いも、なんとなく菊は理解したようだ。