第38章 ゼロ地点の結界より
ふー、とため息を吐いて、香は眉間に手を当てた。
ヨンス宅でパスワードを解析中、かかってきた携帯電話に出たら、
『ちょっと知り過ぎだよ、君たち』
そんな声が受話器から流れて――
気がついたら、全く知らない場所にいた。
これまでの2週間あまりの悪戦苦闘を記録したチップは、なぜか真っ二つに割られ、ヨンスの手にあった。
何が起きたのか、ヨンスにもわからないらしい(もしくはわかりたくない)。
というか、ここがどこかということよりも。
件のPCと、冷蔵庫を開けっ放しにしてきたことに、ヨンスの意識は完全に釘付けにされていた。
再びため息をつきたい気持ちで、あたりを見回す。
ここは、一軒家の一室だ。
電気もガスも通っており、蛇口をひねれば水が出てくる。
棚や冷蔵庫には、当分困らない量の食べもの、飲みものが入っていた。
家具も、カーテンといった装飾品も完備されていて、自分たちが来るまで誰かが暮らしていたような生活感がある。
ひたすらに、気味が悪かった。
まるで誰かに用意された、軟禁部屋のようだったからだ。
いや、一番気味が悪いのは、室内ではない。
漠然とした不安を感じながら、窓をあける。
曇り空は無表情で、風も、鳥の声もなく、あたり一帯は静寂に包まれていた。
まわりは空き家だらけで、ひとっこ一人、車一台もない。
、、、、、
そう、誰もいないのだ。
「……Ghost town」
地平線へ広がる街並みは、まさにそう呼ぶのがふさわしい静けさに支配されていた。