第37章 第二部 プロローグ/プログラム起動
「きみは一体……」
問いただそうとするが、すぐそばを風が吹き抜ける。
振り返ると、扉からマシューが廊下の暗闇に消えていた。
「ま、待ってくれ!」
弾かれたように立ち上がり、後を追う。
アルフレッドの声を無視するように、マシューは廊下を走っていた。
ざわざわとこれ以上ないくらいの胸騒ぎがする。
――ドンッ!
また爆発音が轟く。今度はさっきより近い。
角をまがったマシューが視界から消える。
「待ってくれってば!」
ほとんど叫ぶように呼びかけるが、返ってくるのは走る音だけだ。
走りながら、つい数秒前のことを思い出す。
機械音声は、たしかに『All delete?』と言っていた。
それに対して、マシューは「Yes」と答えた。
続いて起こる爆発、走り出すマシュー。
なにがなんなのかさっぱりわからない。
この施設を破壊して、彼が得をすることなどない。
二人でクマを作りながら、夜通し書類とにらめっこしたことを、マシューが忘れたんだろうか?
いやそんなことあるはずない。
「マシュー! 待ってくれよ!」
困惑とこみあげる不安に、叫ばずにはいられなくなっていた。