第37章 第二部 プロローグ/プログラム起動
来たときに通った角をまがる。
そこで、眼前の廊下が、ただの暗闇でないことに気づいた。
廊下の先の床には、窓から月明かりがさしこんでいる。
しかしそれとは別に、淡い光の粒子が暗闇に溢れていた。
アルフレッドが“それ”を見るのは、二度目になる。
「い――行かないでくれっ!」
ほとんど悲鳴のような声がアルフレッドの口からこぼれた。
きらきらした粒子は、マシューごと周囲の風景を歪ませている。
くるりとマシューが振り返った。
そのまなざしは、大丈夫だよとでもいうように優しい。
――間に合わ、ない。
「マシュー!」
粒子とともに彼の姿がかき消える。
廊下に残響するマシューを呼ぶ声が、やがてサイレンにかき消され聞こえなくなっていった。
行き場をなくした手が、みじめに空をさまよう。
光の残滓が、月明かりの中にとけていく。
それは、すでに移動ができなくなっている事実を、アルフレッドに突きつけていた。
「……マシュー……」
茫然と立ちすくむアルフレッドの耳元で、サイレンだけが鳴り響いていた。