第29章 for dear my imaginary blank
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菊に促され、ひとまず移動することとなった。
通されたのは、大きめの客間だった。
畳の匂いがして、脱力した勢いでそのまま座りこんでしまった。
菊、フェリちゃん、ルート、アントーニョ、ギル、私の並びで茶色いテーブルを囲む。
さっきより落ち着いてきた私とは対照的に、アントーニョはより取り乱していた。
暴れこそしなくなったが、見たこともない蒼白な顔でうつむいている。
、、、、
まるで、あの瞬間の動揺を取り戻すように。
血の海を発見したとき、二人ともがパニックに陥っていたら、そして彼の決断がなければ。
私たちは今頃あのゴーストタウンで、どうしていたんだろう――?
「公子さん」
呼びかけられ、肩がびくっと跳ねる。
「落ち着かれましたか?」
「は……はい、大丈夫です、話します」
「いえ、無理をなさらず――」
「時間がないんです」
菊を遮って、その黒い瞳を見つめる。
強い口調に戸惑うこともなく、彼の瞳は一層真剣さを増した。
私は、物音がして部屋に踏みこんだところから今に至るまでの、全てを説明し始めた。