第3章 月夜にて
最悪のタイミング――深夜窓から忍び込み、服のはだけた少女を凝視している――に、彼はいた。
背中をだらだらと冷や汗が流れる。
とっさに彼は、ホールドアップのように手を肩まで上げ、無抵抗の意志を示した。
「菊ちょっと待て話を聞いてく――」
アーサーが言い終わらない内に、もの凄い形相で菊が向かってくる。
そして有無を言わせずネクタイを引っ張って、部屋を出た。
「やめ、ちょ、苦し――」
少女がいた部屋を出て廊下に出ても、まだネクタイは離されない。
首が締まり、冗談では笑えない呼吸困難に陥りかけるも、やっとリビングで解放された。
ピシャリと後ろ手に扉が閉められる。
アーサーからは、俯いた菊の表情が窺えない。
おまけに彼は沈黙しているという有り様だ。
慎重に言葉を選びつつ、アーサーは口を開いた。
「……そっ、その……菊を驚かせようと思って、窓から入ったんだが……」
「……」
「誰かいるとは思わなくてよ……い、いろいろ驚いて……」
「……」
「……えっと……」
「……」
「すみませんでした」