第26章 電波塔クラスレート
質問の意図がわからず、私は首をひねる。
“後悔”。
その言葉を、ギルは重く口にしていた。
――まるで自分が、後悔しているかのように。
「向こうの世界に行ったこと、だ」
トリップのことを指しているらしい。
ギルは視線を私から、また空に戻す。
それから私の返答を待たずに続けた。
「“異変”とかいう妙な騒ぎに巻き込まれるわ、自分で行き来できないわ、なーんもいいことねぇじゃんか。そういやイヴァンの野郎にも絡まれてたしよ」
ギルは語尾を小さくしぼませながら、道路の石を蹴る。
乾いた音が夜闇に響いた。
小石は道路の脇に転がっていき、やがて公園を囲む壁にぶつかって止まった。
公園――思ったより、たくさん歩いてきたようだ。
「それに言っただろ? どんな危険があるかわからねぇ。
ひょっとしたら、“戻れなくなる”ことだってあるかもしれない」
「……」
たしかに、その可能性もある。
今まで、戻れたのも、浦島太郎にならなかったのも、ただの“幸運”なのかもしれない。
異変と関わって、無傷でいられるのも、ただの“幸運”なのかもしれない。
なにも、確固たる真実を、私は手にしていない。
ギルの瞳が降りてくる。
月を背景にした表情は、悲しそうでも、不安そうでもなかった。
ただ真面目で、本気だった。
「お前は、俺に出会ったことを後悔してないのか?」