第26章 電波塔クラスレート
そして連れ出されたのは、無論、家の外だった。
家族を起こさないよう、忍者、もしくは暗殺者の気分で玄関から出る。
外は静かな眠りが横たわっていた。
風は弱い。
たまに、葉がかすれる音がするだけだ。
空を仰ぐ。
ちょうど月に雲がかかった。
厚い綿ぼこりのような雲が、のったりと空を泳いでいる。
数日のうちに満月になるだろう。
――その頃には、もう全部が終わっているのだろうか。
「……」
隣を歩くギルを見上げる。
彼も、私と同じく月を眺めていた。
その中空に向いていた視線が、ふと私におりてくる。
「……あー、特に目的地はねぇ。散歩みたいなもんだ」
「そうですか。って車道は危ないですよ」
「いいじゃねーか、誰も来やしねぇって」
子どもっぽく笑うギルは、道路の真ん中を闊歩している。
たしかに、ここは住宅街だ。
車も人も現れる気配はない。
おまけに、どの家も真っ暗に寝静まっている。
この世界には私とギルしかいないようだ――そんな陳腐な感想が浮かぶ。
「つか、『コンビニ行っておでん食いてぇ!』とか言ってもどうせ却下すんだろ?」
「却下です。というか、こんな深夜におでんなんか食べられません」
「いや、お前もう少し肉付きよくなった方がいいって」
「余計なお世話です!!」
「んな怒るなよ」
他愛もない会話が続いた。
いつもの笑みで軽口をたたくギル。
一見ふざけているようだが、なにかを言いあぐねているようにも見える。
と、会話が一段落し、穏やかな静寂が訪れた。
しばしして、ギルが息を吐く。
その顔つきは、さっきとはどこか違って見えた。
「後悔してるか?」