第26章 電波塔クラスレート
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「公子、起きろ公子」
遠くから声が聞こえてくる。
あれ? うちのめざまし時計ってギルのボイス付き、とかだっけ?
そんな素晴らしいめざまし時計、買った覚えはない。
困惑しつつ、緩慢にまぶたをこじ開ける。
「お、公子てめーぐっすり寝すぎだぜ」
至近距離に、ギルの不満そうな顔がスタンバイしていた。
……なんで?
「……え……ええええ!? なんでギルがここにいんの!?」
「ちょっ、静かにしろ! 何時だと思ってんだ!」
「んんんんー!?」
とっさに口をおさえこまれ、起き上がったばかりの体がどすんとベッドに戻った。
地味な痛みに、だんだんと頭がハッキリしてくる。
、、、
そうか、こっちに戻るとき、ギルも一緒に来ちゃったんだっけ……。
頭を軽く振ると、ギルがひとつため息を吐いて尋ねてくる。
「お目覚めですか、お嬢さん」
「お目覚めですよ。深夜1時58分でも」
ギルの言い方があまりに憎ったらしかったので、負けじと嫌味に返した。
そうなのだ、現時刻深夜2時近く、もうすぐ丑三つ刻である。
こんな時間にどうしたのだろうか。
というかめざましが鳴らなかったが、まさかかけ忘れたのだろうか?
「これ着とけ」
ハンガーにかけていた上着を放られる。
受けとり袖を通してはみるが、なぜ上着を着せられるのかわからない。
そんな私の怪訝な表情を見たのか、それとも見ていないのか。
ギルは有無を言わさぬ笑みで口の端を吊り上げ、ベッドにへたりこんでいる私に手を差しだす。
「出かけるぞ!」
草木も眠る真夜中、ギルの宣言が響きわたった。