第25章 雨の中へ
物思いげな目を静かにふせて、口を結ぶ。
言葉を放つのをためらって、葛藤している顔だ。
離れた貸出カウンターで、バーコードを読みとる「ピッ、ピッ」という電子音がなっていた。
館内は人もまばらで、その音以外、しんとしている。
窓の外の喧騒は遠い。
帰宅中の小学生のはしゃぐ声が、だんだんと離れていく。
時間の流れが、ゆっくりに感じられた。
こんなに心地よく、安らかな気分になったのは……いつぶりだろう?
「だから、公子が救世主なんだ」
「……え?」
遠雷が、私の声と重なった。
矢で狙うような視線を放つ瞳には、なんの偽りも、なんの冗談もない。
ただ、赤く、真摯な意志を宿らせていた。
「……き、救世主って……なに言ってるんですか?」
「思い出せ、本田や王はなんつった?」
二の句が継げずにいるのに、そう問いただされる。
菊や耀に? どの言葉を指してるんだ?
そこで、耀の声が耳の奥にふとよみがえる。
『菊から聞いたある。月の影響の話がすっげーヒントになって、調査が進んだあるよ!』
「まさか――」
「そうだ。お前は月と量子テレポーテーションの話をした。するとどうだ?」
「……」
押し黙る私に、ギルが宣告する。
「お前の話がヒントとなって、調査が進んだ」