第25章 雨の中へ
「シュレディンガーが10だとすると、アッペルフェルドは9だ。
そしてフォートが10だとすると、俺らの世界は――“ゼロ”ってことになる」
それはどういうことなんだろう? あとさっきの質問とつながらなくね?
そんな数々の疑問が顔に出ていたのか。
ギルは事典をパタンととじ、一息ついて伸びをした。
「ネゲントロピーは俺らにはない概念だ。
これがもっとわかりやすい……そうだな、地動説が俺らに“欠けていた”らどうなる?」
「……まだ天動説が信じられていた?」
ギルは頷く。
極端な例だが、なんとなく言いたいことがわかりかけてきた。
「だから、宇宙人が来れる“なにか”、月旅行ができる“なにか”。
それがお前らにはあって、俺らにはないんじゃねぇかと思ったんだ」
情報の差による技術の差がないかどうか。
それが聞きたかったようだ。
向こうの景色を思い出してみるが、これといって思い当たるものはない。
細かい科学技術的なことまではわからないけども、こちらの世界とかわったことはないように思えた。
ただひとつ――異変を除いては。
「だからな、俺は……」
ふいに、彼の声が小さくなった。