第25章 雨の中へ
「偶然ですよ!」
「偶然?」
ギルは口の端を歪め、悪意に満ちた笑みを浮かべる。
「そりゃすげぇ偶然だな! ポロッと言ったことが劇的な進展をうむなんてよぉ! お前は科学者か? 専門家か?」
「わ、私……は――」
「しかも狙ったようなタイミングだよな! ヒントとなる情報を言ったら、元の世界に戻れるなんてよ。だから俺は予言する。次にこっちに来たとき、お前はこう言われる。『ありがとう公子! 君のおかげで新しくわかったことがあるんだ!』てな」
ギルの言葉で、目が回りそうだった。
たしかに、月の話を菊にしたとき、量子テレポーテーションの話をルートにしたとき――
そのあとすぐ“戻された”。
そして『ありがとう、調査が進展した』と、次に会ったとき、挨拶のように言われたものだ。
それは、事実。
「でもそれは――」
「お前は、欠けた“X”なんだと思う」
ギルは抑揚なく言った。
目の前の一瞬、手元の事典にその目が落ちる。
「調べられる限り調べたけどよ。
やっぱり、アッペルフェルドとシュレディンガーみてーな違いが結構あった」
ページをめくる音がやけに響いた。
それは、ギルの世界に“情報の欠損”がある、ということか?
フォート氏と同じように、私が知っていて、彼らが知らないことがある?
ギルはなおも続ける。
「ヴェストが言ってただろ。
『存在とは情報である』。
お前は、俺らの世界に欠けたパズルのピースを持ってんだ」
たしかに言っていたけど……あれ?
どうして、彼が知ってるんだろうか。
あの場にギルはいたっけ?
「ふたつ仮説がある」
ギルは事典をとじて、表紙を静かになでた。