第3章 月夜にて
「ったく、どいつもこいつも異変のことでいっぱいになりやがって」
ぼそぼそと悪態をつき、普段は使われていないはずの部屋の窓に手をかける。
音をたてないよう、ゆっくりと開いた。
(さぁて、菊のやつをどう驚かしてやろうか)
――つまりただ単純に、菊をからかいたかっただけである。構って欲しかった、ともいう。
アーサーは続く障子を恐々スライドさせ、そっと中を覗きこんだ。
すぐに、敷かれた布団が目に入る。
(誰だ? いつもは無人のはずだが……)
布団の主が寝息をたてているのを聞き、少しのためらいのあと、アーサーは部屋に足を踏みいれた。
枕のほうを見ると、見知らぬ少女が眠りについている。
「……女でも連れ込んで――いや菊に限ってそんなことはないか」
少女の無防備すぎる寝顔に気が抜けたのか、アーサーは思わず声をもらした。
月光を受け、その輪郭が青白く浮かび上がる。
「……」
狂気じみた満月の明かり。
それと対照的に、のんきで平和そうな寝顔。
アーサーは、不思議と少女から目が離せなかった。