第24章 下位互換カソード
「ぎゃあああああっ!?」
エリザの囁きは背後霊のようだった。
アルは恐怖で飛びのき、あわや携帯が放り出されそうになる。
金切り声で絶叫したアルは、エリザを見てさらに叫びそうになった。
彼女は、脱獄してきた死刑囚のような顔をしていたのだ。
そしてその手には、いつどこから取り出したのか、フライパンが握られている。
血でも滴らせれば、フライパン連続凶悪殺人犯のできあがりだ。
「どっどこからそのフライパンを!?」
「大丈夫、オリハルコン製だから」
「伝説のフライパン!?」
「クソ野郎の石頭をかち割れるくらいはできるわ」
「かち割るどころの惨状じゃないですよ!!?」
「トゥースキュアリーすぎるよ!!」
マシューとアルの訴えに、エリザは「うふふっ」と笑んだ。
2人の背筋にぞわりと冷気が這う。
先ほどの可憐な笑みとは似ても似つかない、しかし本質的に同じような笑みだ。
ふわりと揺れる花の髪飾りが、よりちぐはぐで異様な雰囲気を彼女に与えていた。
「公子ちゃんを散々連れ回して挙げ句そのまま連れ去ったなんて……一体ギルベルトはどう落とし前つけるつもりなのかしら」
「いや、ちょっと違――」
「あら? なにか違った?」
「い、いやいやなんでもないです!」
エリザを遮ったアルの口を、マシューは慌ててふさいだ。
固い笑みで口元を引きつらせながら、目で(マズいよ黙ってアル!)と送る。
唇に薄い憫笑をみせて、エリザは廊下を歩き出した。
「……」
「……」
「……女の子って……怖いんだぞ……」
エリザの背を見送り、マシューと目を合わせる。
2人の深いため息が、書類の上に落ちていった。