第24章 下位互換カソード
「Hello!」
『大変なことになったんだアル! お兄さんもう手に負えない!』
受話器を手にしていなくても聞こえるくらいの声量が飛び出した。
向かいになっているマシュー、そばに立つエリザにまで聞こえるほどだ。
通話の相手――フランシスは、よほど切羽詰まっているとみえる。
携帯を耳からやや離して、アルは引き気味に言った。
「フランシス、少しボリュームを――」
『あかんて! なんで電話してもうたんや! しかもよりによってアルフレッドに!!』
『だから言ったでしょ!? 黙ってあとでルートから迫られてうまく切り抜けられる自信がないの!! それに肝心のルートの携帯繋がんないし! もうお兄さんやんなっちゃう!!』
「あー……もしもし?」
アルは携帯側の片目を細め、対応に困った顔だ。
全てが聞き取れたわけではなかったが、なにやら電話相手側でモメていることは、マシューとエリザにもわかった。
「一体どうしたっていうんだい?」
『公子ちゃんが消えたんだ!』
「……それは“戻った”、ってことだと思うんだぞ」
一度見た経験があるため、アルは冷静にこたえた。
『それだけじゃなくて、ギルも一緒に消えちゃったのよ!』
「なっ、なんだって!?」
予想外のことに、アルの声も負けじと大きくなる。
「……アル、今ギルとか消えたとか聞こえたんだけど……」
マシューが怪訝そうに小声で言った。
アルはゆっくり頷く。
「ギルベルトと……公子が――」
「ギルと公子ちゃんが…………なんだって?」
思考の海に溺れかけたアルの耳に、氷点下の囁きが低く響いた。