第23章 消失のための再帰点より
なんだかギルは釈然としない様子だ。
疑いが晴れたというのに。
――あれはやはり見間違いだったんだ。
ギルは地下研究所で私たちと別れたあと、フランシス、アントーニョと図書館で合流した、ただそれだけ。
なんの変哲もないことだ。
イオンは私を混乱させようとして、変なことを言ったにすぎない(実際思惑通り混乱しただけだったし)。
肩の荷がおりた気分でいると、ぽんぽん、と頭を撫でられる。
手の主を見れば、気まずげに視線をあらぬ方向へ向けているギルだった。
「その男……えーっと……」
「イオン?」
「そう、イオンってやつ、あからさまに怪しいからよ、今度会っても無視してすぐ誰か呼べ」
「防犯指導ですか」
冗談めかして言うと、フランシスが口を出す。
「心配してるんだよ。誰もいない空間に公子ちゃんみたいな可憐な女の子がいたら理性を保てる男なんてこの世に存在しな――」
「フランシスだけとちゃう?」
「ひどいっ!」
ささやかに黒いアントーニョの笑みが遮る。
そこにギルも加わり、やんややんやと3人は騒ぎだした。
やれやれと思っていると、ふと目がギルの本に落ちる。
「……んん?」