第23章 消失のための再帰点より
「――とでも言って欲しかったのか?」
「…………へ?」
冷たい宝石のような瞳が、フっとやわらいだ。
人形じみた無表情はいつものふざけたしたり顔に変容し、口の端がにやついている。
そればかりか、やれやれと肩をすくめてみせている始末だ。
……つまり、どういうことだってばよ?
「も……もうっ、ふざけないで下さい! マジでびびったんですからね!」
「いや~公子のまぬけヅラがあんまりにも面白くてよ」
「純情を踏みにじられたって弟さんに言いつけますよ!」
「やめろ誤解をうむからその表現!!」
かたわらでヒィヒィしながらフランシスが、和やかにアントーニョが、それぞれ笑っている。
実に癪だ。まんまと騙されたのは、私だけだったのだ。
必死に私をなだめながら、ギルが言い聞かせてくる。
「公子が言う時間、今みたく3人で図書館にいたからな。んなおかしな場所の話は寝耳に水だぜ」
「といっても、図書館では個別行動だったからわかんないけどね」
茶化すようにフランシスが横槍を入れる。
ジト目をするギルに「ま、アリバイはあるってことで勘弁してあげて」とフランシスがこちらにウィンクしてきた。クソが、イケメンだから何もかも許されると思ったら大間違いだ。
「そうですよね!」
「ほら~公子ちゃん納得してくれたよ」