第23章 消失のための再帰点より
言いたいことを言い終えたのか、ギルは読書に戻ってしまった。
私の隣で分厚い本を読みふけっている。
ギルの向かいで、同じくフランシスも優雅にページをめくっていた。
と、私の向かいに座っていたアントーニョが再び尋ねてくる。
「なぁなぁ、眉毛になんて言いかけてたん?」
あぁそれか……
ここで2つ問題がある。
1、アーサーの口止めを無視っていいのか。
2、ギルにゴーストタウンにいたことを聞くべきか。
「…………」
さんざん葛藤したすえ、洗いざらい吐いてしまうことにした。
私だけが辿りついたゴーストタウン。
そこに現れたギルの影。
そして――“彼”のこと。
「……ということなんですが」
一区切りつき、アントーニョとフランシスを見る。
2人はいまいちパッとしない表情をしていた。
理解したのかしていないのか、なにを考えているのか、見てもわからない。
残る1人、ギルはというと、俯いてどんな顔をしているのか窺えなかった。
しばしの沈黙ののち、
「……見られちまってたか」
そう、低い響きが室内を震わせた。
ギルは顔をゆっくりあげ、私の視線を絡め取る。
その顔は感情が読み取れず、作り物じみていた。
どこまでも冷静でいて、それゆえに次の瞬間なにをしでかすかわからない、そんな顔。
「マズいよな……お前に“あれ”を見られてたなんて」
確認するような、抑揚のない声。
凍てついた瞳の赤に、自分が息をのむのがわかった。