第22章 依然重複領域外に
風がさらさらと彼の髪を揺らす。
怜悧でいて、どこかあどけない横顔はここではない遠くを向いていた。
私は、放とうとした言葉をしまった。
――それは、前見た“ギル”は見間違えじゃなかった、ってことか――
「……」
沈黙を選んだかわりに、どこへともなく歩き出してみる。
どうせ、なにを聞いてもはぐらかされるだけだ。
それにここへ来たときから感じていた、奇妙な違和感から逃れたかった。
なら自分で動くべき――そう思ったのだが、
「そっちは危ないよ」
不意に後ろから抱きすくめられ、歩みを止めさせられる。
ふわりと包みこむように覆い被さられ、一瞬なにをされたのかわからなかった。
ワンテンポ遅れて「ひぃっ!?」と喉から悲鳴があがる。
が、体勢を固定されて動けない。
いや、ずるずると半ば引きずられるようにして、元の位置に戻された。
やっと解放されて、信じがたい気持ちでイオンを見ると、
「迷子になるだろうからやめとくのを勧めるよ」
至極にこにことしている。
自分だけ心臓をバクバクさせているのがバカみたいだった。
その綺麗な微笑に文句を言う気も失せ黙りこくっていると、
「てっきり会った瞬間質問攻めにされると思ったんだけど」
……そうくるか。
ならばお望み通りとばかりに口火を切った。
「ここはどこなの? 幻覚? 夢? 私の頭の中で起きてること? それとも現実? それともまたどこかに“飛ばされて”ここに来ちゃったの?」
矢継ぎ早な単語を静かに受け止めて、彼はこたえる。
「全体であり、つなぎ目でもある場所だよ」
「いや……いやそうじゃなくてですね」
「数直線上の0であり、反対方向でもある、って言えばいいかな」
「……はぁ」
可もなく不可もないような返答がこぼれ落ちる。