• テキストサイズ

【ヘタリア】周波数0325【APH】

第22章 依然重複領域外に


それよりさ、とイヴァンは話し始めた。

「公子ちゃんのこと、まだなにか隠してるよね?」

耀は表情を変えない。

しかし結ばれた口とまっすぐな瞳は、静かで激しい怒りを宿している。

――“それより”って、こいつにとっては“その程度”ってことあるか――

「菊が話したことが全部ある」

「一体それをあの場にいた何人が信じたんだろうね」

「わかっていないことは話せない、ただそれだけある」

固い口調で耀は告げた。

互いに一瞬たりとも視線を逸らさない。

笑顔と無表情が見つめあう、奇妙な沈黙が漂う。

「まぁ……それならそれでいいんだけどね」

含みを持たせた言い方で、イヴァンが視線と沈黙の秩序を破った。

それから「ふふっ」と語尾に音符を踊らせて笑う。

耀が訝しんでいると、瞬時にあることが脳裏をよぎった。

彼の瞳が、わずかに見開く。

「……お前」

「ん?」

「あのとき、公子になにしたあるか……?」
、、、、
あのときとは、公子がやって来てすぐ。

ソファで彼女を休ませていた時のことだ。

耀は、眠っている公子に近寄ってきたイヴァンが、一瞬妙な動作をしたのをたしかに覚えていた。

問いただすと、イヴァンは視線を緩やかに耀のもとへ流す。

それから、ひどく優しげな声色で言った。

「彼女はさ、きっと素晴らしい協力者になるよ」

「なにを……言って――」

突如、右手の建物から叫び声と破壊音があがる。

「あそこ取り壊し予定の棟じゃ……」

背後で呟く湾の声も、耀にはよく聞こえなかった。

建物の方に顔を向けたイヴァン。

その口元が、笑みに歪んでいくのが見えた。
/ 465ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp