第22章 依然重複領域外に
耀の背後に向かって唐突にイヴァンが呼びかけた。
ハッと耀が振り返ると、柱の影から湾が蒼白な顔を出していた。
首を俯きがちにして、視線は地面に落とされている。
「湾!」
耀が慌てて駆け寄る。
「なんで来たあるか!?」
怒りさえ含んだ耀の声が降りかかり、湾はゆっくりと顔をあげた。
彼女は申し訳なさそうに眉を歪め、唇を噛んでいる。
その唇が、静かに言葉を紡ぎだした。
「老師が心配で……」
「なに馬鹿なこと言ってるある! 遠ざけるために我は――」
「……ごめんなさい」
弱々しく呟いて、湾は再びうなだれた。
耀は怪訝に思い、そっと湾の顔を覗きこむ。
「私が、もう少し……もっと早く二人のところに行っていたら――二人のことをみんなに伝えていたら……」
湾の声は今にも泣き出しそうにかすれていた。
携帯を握りしめた右手が、かすかに震えている。
彼女は、香とヨンスが消えた際の自分の行動に負い目を感じているのだ。
耀や菊が違うと諌めても、湾の中の自責の念はまだ消えていない。
耀はいくらか眉をしかめたまま、ため息を吐いた。
そして湾の頭に手をぽんと乗せて、
「湾が気に病むことなんかなにもないあるよ。何度も言わせんなある」
と言い聞かせるような口調で言った。
「大変なことになってるみたいだね~」
くすくす笑いながらイヴァンが耀に歩み寄る。
耀はすぐさま湾を背中でかばうようにして、イヴァンに向き直った。
その瞳は一層強くイヴァンを見据えている。