第21章 乖離する声を
「!?」
フェリちゃんの指摘に残る3人も気づいたのか。
ハッとして顔色を変える。
アーサーの瞳は困惑に満ち、足音がした方角の壁に視線が注がれていた。
冷たい床をいくつかの足が叩いている。
何人かはわからない。
話し声がかすかに聞こえてくるが、“声の気配”という表現が正しいほどのボリュームだ。
「そんな……ここに来る奴なんていないはずなのに……!」
声をひそめてアーサーが呻く。
「もうすぐ取り壊される棟、というかいつ倒壊してもおかしくない建物なので誰も来ない、と聞いたのですが……」
「いつ倒壊してもおかしくない!?」
その表現に、思い出したように寒気が背中を駆けのぼる。
怖すぎんだけどそれ!
足音は緩やかに、しかし確実にこちらに近づいてくる。
フェリちゃんがふえぇ! とルートの背中に隠れた。
菊とアーサーも、ルートの影になるようにして身を強ばらせる。おい。
私ももちろん目の前にはルートの頼もしい背中だ。
両手で背中のものを庇うように、ルートは臨戦態勢(?)に入った。
足音が大きくなる。
何人だ? 結構多い。
と、話し声がぴたりと止んだ。
フェリちゃんが押し殺した短い悲鳴で息をのむのが聞こえる。
顔の見えない足音だけが、心臓の鼓動と同じ速さでこの部屋に近づいてくる。
「やっぱり俺たちを消しにきたんだよ!」
そんなわけない。馬鹿馬鹿しい。非科学的すぎる。
頭ではそうわかっているのに、焦燥と恐怖がその冷たい手で内臓をわしづかんで離さない。
飲み込んだ悲鳴を吐いてしまいそうだ。
悪い冗談みたいなタイミングで蛍光灯がチカチカ明滅しだす。
全くもって悪趣味極まりない。
やや長い闇の後、足音が止み、光がつく。
静寂が空間に降り――