第21章 乖離する声を
「そもそも存在とはなにか?」
「えっ、えーと……原子?」
「ならば同じ原子を用意すれば、同じ人間が作れるのか?」
「ヴェー……それはどうだろう?」
「それは違う。原子だけでは作れない。原子の配置、運動量も必要だ」
哲学的な問いかと思えば、すぐさま科学的に移り変わる。
そんな問いに、フェリちゃんはたじたじとなっていた。
話についていこうと必死だ。
いや、おかしな受け答えをして、真剣そのもののルートを怒らせはしないかと緊張気味、ともいえる。
私はピンクレモネードをちびりと飲んだ。
「しかし、ここでハイゼンベルクの不確定性原理、というものが問題となる。
位置と運動を同時に観測することは不可能、という原理だ」
「物質がどこにあるか、どう動いているか、これを同時に知ることはできないという自然界の原理です」
白旗を出し始めたフェリちゃんに、菊が助け舟を出した。
「位置を知れば運動が不正確になり、運動を知れば位置が不正確になる。
この原理は量子論の基本だ。そしてその量子論には、一見テレポートを妨げるように見える定理がある。
それは量子非複製定理だ」
フェリちゃんがおずおずと頷く。
うー頭が混乱してきたぞ。