第19章 会議は笑わない
「えっと、菊さんに本貸したままなの忘れてまして! それを言おうと……」
「そういえばそうでしたね。ちょうど持っていますので、あとでお返しします」
さすがエアリーダー・オブ・レジェンド、そつなく会話をつなげてくる。
「よかった! あれ図書館で借りたもので――」
「ねぇ、なにを隠してるの?」
ピシリ、と空気が結晶する。
捕らえられた視線の先には、にこにこと微笑するイヴァン。
綺麗なうす紫色の瞳は、ぞっとするほど冷たい光彩をまとっている。
その瞳孔が私をじっと凝視したまま、まったく笑っていなかった。
背筋が、血が、凍りつく。
「……なにも隠してませんが」
「当ててみせようか?」
「――っ!?」
嬉々として、いたずらっ子のようにイヴァンが言った。
からかうような口調だが、ふざけているようではない。
確信がある言い方に聞こえる。
……なにかを掴んでいるのか、彼は。
途端呼吸がとまりそうになる。
どうしよう、どうしたら――
バンッ!
静まり返っていた室内に、机を叩く音が鳴り響いた。