第17章 シュガーポットの在処は
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「おっかしいな~」
呼び鈴の前で湾は首をひねる。
先ほどからインターフォンを押しているのだが、いつまでたっても返答がないのだ。
訪問は事前に連絡していたし、不在は考えにくい。
訝しんでいると、ハッと湾は思いついた。
「もっ、もしかして……
疲れて寝てるんじゃ……」
ありそうだと一人頷き、やれやれと扉に近づく。
ゆっくりとドアノブに手をかけると、
「……あれ」
いとも簡単にドアノブが沈んだ。
湾は面食らって、思わず声をもらす。
ネットゲームでも、なぜか厳重な戸締まりをしていたヨンスだ。
パスワード解析などといった重大な作業に、鍵をかけないままにしておくとは少々考えづらい。
不可思議に思いつつ、玄関に踏みいる。
靴がまさに“家にいるぜ!”というかんじに置いてあった。
ますます不在が考えられない。
「湾だヨー……」
呼びかける声が、無意識に情けないものとなっていた。
――人の気配が、しなかったからだ。
「香? ヨンスー?」
かわりに聞こえてきたのは、単調なリズムを繰り返す電子音だけ。
それに、どことなく外と中の温度が違う気がする。
なんだか少し、寒い。
「…………」
一体なんだというのか。
自らの弱気にかぶりを振って、湾はひとまずリビングに向かう。
リビングに近づくたび、寒い空気を発しているものと音源に近づいているようだ。
意を決してリビングのドアを開く。
すると、全開に近いあけっぱなし状態の冷蔵庫が目に入った。
はやく閉めろとばかりに電子音を発している。
「な……なーんだ冷蔵庫か! ってもったいないヨ、温度変わるほど開きっぱなしだったってことでしょ!?」
安堵の笑みが浮かび、湾はささっと冷蔵庫を閉めた。
耳障りな電子音がパタリとやむ。
そこで、湾ははたと気づいた。
、、
――なぜ、全開だった?
閉め忘れは大体が、ほんの一押しで済むくらいのものだ。
全開の閉め忘れ、なんてものは考えにくい。
こんなのまるで、最初から閉めなかったみたいだ。
しかし、閉めなかった状況が湾には想像できない。
、、、、、、、、
閉められなかった状況しか、考えられない。
「……っ!」
薄暗い予感に駆られた湾は、部屋を回って二人を探しだした。