• テキストサイズ

【ヘタリア】周波数0325【APH】

第15章 廃マンションにて


「……」

声を、いや呼吸音すらためらわれるような。

そんな無表情な静寂が、あたりを支配していた。

さっきまでは鳥が鳴き、風が吹いていた。

なのに今は、まるで死んだようにあたりが静まり返っている。

“ゴーストタウン”――そんな言葉が浮かんだ。

それだけではない。

「みん……な……」

そう、すぐ隣にいたはずの、すぐ近くで見えていたはずの人影がいなくなっていた。

誰もいない駐車場で一人、木を触っているという意味不明な状況だ。

アーサーも、ルートも、アルも、フェリちゃんも、菊も。

誰も、いない。

なんの音もしない。

絵画の世界に迷い込んだ錯覚がおきる。

――なにが起きてるの?

嫌な胸騒ぎがした。

それに、どうしてか。

さきほどから、この無音空間に来た瞬間から、ずっと誰かに見られている気がする。

「……っ」

妙な肌寒さがぞわりと肌をなでた。

腕をさすろうと木から手がはなれかけ、「離すな」というアーサーの言葉をハッと思い出す。

真面目な彼の表情。

そして唯一リアリティを持つ樹皮の感覚。

恐怖と困惑を押し殺し、考えあぐねていると、

「っ!」

視界のはしを人影が駆け抜ける。

すぐ身を翻すが、ただ黙りこむ街が広がっているだけだ。

あれは――
/ 465ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp