第15章 廃マンションにて
「……」
声を、いや呼吸音すらためらわれるような。
そんな無表情な静寂が、あたりを支配していた。
さっきまでは鳥が鳴き、風が吹いていた。
なのに今は、まるで死んだようにあたりが静まり返っている。
“ゴーストタウン”――そんな言葉が浮かんだ。
それだけではない。
「みん……な……」
そう、すぐ隣にいたはずの、すぐ近くで見えていたはずの人影がいなくなっていた。
誰もいない駐車場で一人、木を触っているという意味不明な状況だ。
アーサーも、ルートも、アルも、フェリちゃんも、菊も。
誰も、いない。
なんの音もしない。
絵画の世界に迷い込んだ錯覚がおきる。
――なにが起きてるの?
嫌な胸騒ぎがした。
それに、どうしてか。
さきほどから、この無音空間に来た瞬間から、ずっと誰かに見られている気がする。
「……っ」
妙な肌寒さがぞわりと肌をなでた。
腕をさすろうと木から手がはなれかけ、「離すな」というアーサーの言葉をハッと思い出す。
真面目な彼の表情。
そして唯一リアリティを持つ樹皮の感覚。
恐怖と困惑を押し殺し、考えあぐねていると、
「っ!」
視界のはしを人影が駆け抜ける。
すぐ身を翻すが、ただ黙りこむ街が広がっているだけだ。
あれは――