第15章 廃マンションにて
「あの……一体なんの話を?」
「いいからこっちへ来い。アルも早くしねーと置いてっちまうぞ」
そう顎で示し、颯爽と歩いていくアーサー。
後ろで喚くアルなどどこ吹く風だ。
私も仕方なしについていく。
敷地内のすみ、やや大きな木のそばでアーサーが立ち止まった。
「木に手を添えろ」
「へ?」
なんの魔術をなさるおつもりで?
「黙って言うとおりにしろ」
「はっはいぃ!」
馬鹿にしてんじゃねぇよとでも言いたげなカオで凄まれ、幹に手をおいた。
隊長によって隊長的な起こされ方をされているフェリちゃんを目にしつつ、アルにも目をやる。
彼はかかえた菊の手を取り、幹に添えた。
そして一度目を閉じて、ゆっくりひらくと同時に自分の手を隣に置く。
半泣きなフェリちゃんが手をやり、ルートもそれにならったのを確認し、
「……木から手を離すなよ」
アーサーが、幹に手を置いた。
と思った瞬間、視界がぐらりと揺れる。
しかしそれも一瞬だ。
地下鉄に入って耳が詰まるような、そんな“異質ななにかに入った”かんじがする。
もっと言えば、重力の方向が変わり、壁に足をつけているような不可思議な気分だ。
と同時に、私は気づいた。