第15章 廃マンションにて
「あれ? ルートは……」
疑問に思って体を起こすと、ばさっとなにかが落ちた。
それはアーサーの上着だった。
どうやら私にかけてくれていたらしい。
「あ……上着ありがとうございます」
「いっ、いやお前のためとかじゃなくてだな! その、しっ紳士だからな、レディーを気遣うのは――」
「あの、ルートヴィッヒさんはどこに?」
はいはいツンデレ乙ツンデレ乙と思いつつ、そう尋ねる。
アーサーはあらぬ方向に目線を泳がせながら、清々しいまでのツンを発揮していたが、
「……知らねぇよ。あの野郎黙って勝手にどっか行ったからな」
その顔がムスッとふてくされた。
ルートの名前を耳にして、機嫌を損ねたらしい。
あからさまに嫌そうに眉をしかめている。
「そうなんですか……」
「あ、いや、そこまで遠くには行ってないはずだ」
私の気落ちした声に、アーサーは慌てて言葉を修正した。
そのペリドットのような瞳には、どことなく落ち着きがない。
根掘り葉掘り質問攻めにしたいのを、我慢しているように見える。
――彼はどこまで知ってるんだろう?
私が口をひらこうとすると、先にアーサーが尋ねてきた。
「その、ルートヴィッヒから聞いたんだが……もう体は平気なのか?」
――なるほど、気遣ってくれてたのか。
「はい、もうすっかり」
私は上着をたたんで渡した。