第2章 邂逅と眩暈と
「あの、公子さんは日本からいらしたんですよね?」
「はっはい、そうです」
菊の遠慮がちな問いに、あわあわと答える。
瞬間、嫌な予感が、ビリッと脳内を走った。
もしかして彼らは――
「おかしい。話どおりの時間、日本に地震はなかった的な」
しん、とあたりに静寂が降りる。
香くんの厳しい声が、耳の奥で残響していた。
「……えぇと、ですね……」
言いよどみつつ、あぁやっぱり、と心の中で呻いた。
どうやら彼らは、“彼らの世界の日本”から私が来た、と考えているらしい。
君たちはマンガの世界のキャラクターで、私は現実からそこに迷いこんじゃったんだよーたはは参ったなー
……なんて、口が裂けても言えない。
頭を抱えたい気持ちで、必死に考えを巡らせる。
結果口をついたのは、こんな言葉だった。
「も、桃太郎って知ってますか?」
微かに自分の声が震えている。
皆が呆気にとられている中で、私と香くんだけが、ひきつった笑みを浮かべていた。