第11章 ある報告書より
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「もうここで地震は起きた、そう言いたいのか?」
「はい。ですが、地震計は揺れがあったとは示していません」
「あー……ほら、この計測器が誤作動したんじゃないか?」
「その可能性も否定できませんが、それは他になにも手がなくなったときの最終判断です。第一それでは、断層の破壊によって、空中に電子が放出され起きた“発光現象”の説明がつきません」
きっぱりと菊は言い切る。
アーサーはいよいよわけが分からなくなってきた。
地震が起きた、という証拠はあるのに、肝心の地震計は一切の揺れを感知していない。
そして現に、彼らが体感したのはせいぜい震度3レベルだ。
計測器が示し、菊が今言ったような2分前に、M6規模の揺れなど感じていない。
――もし本当に地震がおこっていたのなら、
“プレートは動いたのに、そこにうまれる“揺れ”という運動エネルギーが、どっかに行ってしまった”
――なんて摩訶不思議なことになっちまう。
アーサーは笑い出したいような気持ちになった。
「つまり――」
人は、理解を越えたものと対峙するさい、理性だけではもたないらしい。
しばしの沈黙が舞い降りた。
アーサーは、きちんと向き直り声をひねり出す。
「つまり、“全く揺れの伴わないM6規模の地震が2分前に起きた”ってことか?」
「はい」
「……」
自分でも、腹を抱えて笑いそうなほどにおかしな会話だった。
なのに、菊は短くむだのない返事を即答。
「はは……は」
乾いた笑みがもれる。
、、、
菊の口からそんな言葉が飛びだすとは、信じられなかった。
しかし、常識を軽やかに飛び越えた“それ”を受け入れるしかないと、頭のどこがでわかってしまう。
アーサーは自分でも気づかない内に、机をバンっと叩いていた。