第11章 ある報告書より
「そんなんありえねぇだろっ!」
荒げた声がとびだす。
半ば睨みつけるように菊を見る。
しかし、あろうことか
「……」
彼は、薄い笑みを口元に浮かべていた。
嘲笑のような、あるいは憐憫のような。
そのどこか妖艶で、この上なく不吉な様相にアーサーは声を飲みこんだ。
「……公子さんは別の世界、いえ、別の次元からいらっしゃった方です」
黙祷にも似たしばしの沈黙を引き裂いて、唐突に菊は言った。
「……すまん、もう一度言ってくれるか?」
「上位次元、外側……ご本人もわからないようですが、私たちのいるこの宇宙とは、全くちがった宇宙の地球からの来訪者であることは確かです」
「待て、待ってくれ、菊」
あまりに突拍子もない申告に、アーサーは掻き消すように大声をだす。
――別世界? 別次元?
眼前の人物がおかしくなったのかと思い、菊を凝視した。
けれどその瞳の黒には、濁りなく煌々と冷えた光が宿っている。
「……俺には、菊がなにを言ってんのかさっぱりわかんねぇよ」
全身から絞り出すように、そう吐きだした。
すると、アーサーの頭にこつんと何かが当たる。
みれば紙ナプキンで折られた手裏剣だった。
菊がふわりと、しかしやや余裕がない笑みを浮かべて言う。
「“ありえないなんて悠長なことを言ってる場合じゃない”、ということです」
「……」
支離滅裂な状況に打ちひしがれる。
アーサーは、“359nt”という無表情な数字をいつまでも見つめていた。