第11章 ある報告書より
菊の表情をしげしげと眺めてみるが、そこにある感情は読み取れなかった。
「……」
「私が言いたいことはですね――」
つられたのか、菊もナプキンを一枚取り出してなにやら折り出す。
「木星の重力は地球より強い。ただ打ち消され、相殺されているだけだから、たいした影響もない」
「電離圏だな」
「はい。オゾン層といった層が、宇宙からの放射線や磁気変動をやわらげているからです。つまりですよ? その効果がうすれたら――」
「どういう意味だ?」
なぜだか、これから彼がとんでもないことを言う気がして、アーサーにそう口走らせる。
電離圏がこわれ、木星効果が高まる――ひいては、地震にたいしてより如実な影響がでる。
「……っ」
そんな話があってたまるか。
そんなものが、最近の地震の多発を解決していいわけがない。
脳内にできあがりつつあるものを、アーサーは首をふって追い出した。