第11章 ある報告書より
「私自身思うことがありまして、報告書にあった参考文献を探してみたのです。その関連書籍の一冊が、どうにも気になりまして――」
一度口をきり、菊は手元に引き寄せたかばんから本をだした。
古めかしいそれは、“月の科学”と題されていた。
本をアーサーの前に示しながら、菊は続ける。
「ご存知のとおり、地球の表層にはプレートという岩盤があります。
その移動や、プレートどうしの押し合いによって生じる歪みが、応力――ストレスを高めます。
限界までたまった応力が解放されると、断層がうまれます。
この断層の出現が、揺れの原因です」
「だが、応力解放の引き金の正体は、まだわかっていない」
「そうです。そこで、これです」
菊はあるページをひらくと、アーサーにわたした。
アーサーはおずおずと受け取り、ひらかれたページに目を落とす。
「さすがアーサーさんです。端に小さく書かれた注釈にもきちんと目をとおして、書類に載せてくださるんですから」
「まっまぁな! 菊に出す“地震の書類”ときたら、それなりのものを出さねえと恥ずかしいからな」
唐突に飛び出した褒め言葉に、柔らかな微笑。
それに戸惑いながら文章を追っていた。
さっきから、菊の様子がおかしいように思う。
なんというか、目が据わっているのだ。
彼はなにかを、さきほどの少女以外のまた別のなにかを隠している――
そんな直感を抱いて、読み終えたアーサーは本から顔をあげた。