第12章 昇る泡 弾ける想い
*
「久しぶり、だね。」
化学準備室のソファで、ゆったりと煙草をふかしている先生と目が合う。
「だけど、もう…今日で最後かな?」
悪戯に笑う先生の表情が、細めた目が、揺れる青髪が。
私の鼓動とリンクしてるんじゃないかってぐらい、胸が鳴る。
私はふう、と息をついて、先生のテーブルに置いてあった先生の煙草を取る。
「…珍しいね、もらい煙草するなんて。」
「そんな気分なんです。」
私はぼす、っと先生の横に腰かけて、煙草に火をつける。
「アキラと付き合っていたひと月は、とても楽しかったです。」
先生の煙草は、自分の物より少し重たくて、なぜか、心地よかった。
「色んな表情のアキラを見て、愛されるってこんな幸せな事なんだなって感じました。」
「それは、…素敵な事だね。」
先生の方をちらと見ると、先生は遠くを見ていて。
「でも、ずっと気持ちを押し殺してた。」
「…」
すう、と煙草を肺に貯め、吐く。
揺らめく煙のように、言葉を緩やかに、自分らしく、紡ぐ
「アキラの事も、もちろん好き。だけど」
私はもう一度先生の顔をみた、今度は、しっかりと。
「揺れる髪も、その声も、優しい顔も、大きな手も、全部」
(どんな些細な事も、全部)
「私を翻弄して、仕方ないぐらい、」
(好きすぎて、怖くなるぐらい)
「気持ちを認めるのが怖くて、押し殺して、沈めてしまうぐらい」
私は煙草の火を乱雑に消し、立ち上がり、先生の前に立ちはだかる。
「せんせいのことが、すき、でした。」
震える声を、情けない顔を、全部見てほしい。
どれだけあなたの事が好きだったか、分かってほしい。
そんな気持ちで、先生の目の前に立つ。
「…そう、か。」
先生も、煙草の火を消して、立ち上がる。
先生はすこし困った顔をして
「…嬉しいよ、ありがとう。」
と言い、私の頭を撫でた。
(これで、良いんだ。)
アキラは、両想いだって言っていた。
その言葉を微塵も信じていなかった、というと、嘘になる。だけど、先生は、最後まで優しい先生で居てくれたんだ、って。
「ありがとう、ございました。」
それでも、涙は流さないように、必死に笑顔を作る。
多分全然可愛くないけれど、これが今の私の精一杯。