第11章 ひとつの恋が終わる時
*
今までなんともないと思ってたのに。
先生は当たり前のように私の横に立って、タバコをふかす。その横顔すら見る余裕がない自分に気づく。
「…せん、せ」
私は足元を見たまま、なんとか言葉を紡ぐ。
「留学、行くんです。」
「らしいね、聞いたよ。」
「今、職員室に挨拶してきました。」
「そうだったのか、入れ違いだったのかな」
「…はい」
私がずっとうつむいていたからか、先生はふふ、と笑って、私を覗き込んだ。
「そんな悲しいのか?」
先生の細い目が、さらに細められる。
「せっかくちゃんと付き合ったのにな。アキラと、離れるの、そんなに悲しいのか?」
(なんで、しってるの?)
そう言葉で紡ぐ前に、先生は私の驚いた顔から察したみたいで。
「はは、そーんな驚かないでも。さっき、アキラに屋上に呼び出されたんだよ。」
まさか仮で付き合ってたなんてなあ、あいつもやるじゃない。なんてふざけるように笑いながら、先生は言った。
アキラと離れるのが寂しいのか、と聞かれた時、私の胸はねじ切れるような苦しみを覚えた。いや、覚えてしまった。それと同時に、ちがう、って、思ってしまった。アキラじゃなくて、私は多分。
(…やっぱり、わたしは、だめなひとだ)
青紫の髪が、目が、優しい声が
(まだまだ、比べ物にならないぐらい私を翻弄してる)
だけどもう、先生はアキラと私が一緒になることを受け入れてるだなんて。
わたしはぎゅっとタバコを地面に押し付けた
「…帰ります、」
「」
背中にぶつけられた声は、どこか尖っているようで、思わず足を止める。
「アキラが、おかしな話をしてたんだ。」
「アキラ、が?」
ゆっくり振り向くと、そこにはいつもの笑顔の先生がいて。
「は、先生のこと好きなんだ。って、もう知らないふりするな。って」
生徒と教師の憧れを、なに勘違いしてるんだか。自分が付き合ってたくせにね?という先生は、笑っているのに、笑っていなくて。
「…!」
わたしは形容できない気持ちを堰き止められず、弾かれるように屋上を出た。
*