第11章 ひとつの恋が終わる時
9月はまだ、夏のうだる暑さを引きずっていて。
「きりーつ、れい、ちゃくせき。」
なのに、新学期はあっけなくやってきた。
俺はどん、と席に着き、始業式明けのロングホームルームの先生の話に耳を傾ける。
「じゃ、まず宿題の回収〜」
(ちょっとずつ、センセに戻ってきてる)
俺がと仮とはいえ、付き合ったと言った時から、先生はどことなくよそよそしくて、どことなく遠くを見ているようで。
けれど、今日の先生は完全に目の奥が見えなくなってた。
(大人って、とんでもねえ)
どんな状況でも、自分の気持ちにリミットをかけれずに、暴走してしまう俺からしたらとんでもない理性だ…そう、今回だって。
ふと、斜め前のに目をやる。
先生の方も向かず、窓の外をぼんやり見つめる横顔が綺麗で。彼女のシャンプーの香りがここまで香ってこればいいのに、なんて思いながら、頬杖をついて見つめる。
(なんで、告っちゃったんだろ)
の心の中の先生が、死んだことなんて一度もなかった。
好きな人を必死で目で追ううちに、分かることはどんどん増えて、そのたび、苦しかった。それでも、
(俺のこと、選んでくれた。)
気持ちの揺れに漬け込んだずるさが生んだ、奇跡だったけれど、それでも。
ふと緩みそうになる頬を、口の中を軽く噛むことで防ぐ。
も今は、俺のことを好きになろう、見ようとしてくれてるけれど、
(それは本心の好きじゃない、し)
「泉、悪いけどこれ、職員室に持って行っといてくれない?」
「了解です。…先生、白衣、ほつれてますよ。」
泉の前で揺れる青紫の髪が、今日は少し憎い。
(彼女が一番幸せになるルートを消したのは、俺)
アンフェアに手を出してしまったことも、一番愛されてないのに付き合われるのも嫌。でも、が好き。
「…はあ〜」
(俺、どんだけ我がままなんだよ。)
俺の気持ち
正義感
の気持ち
先生の気持ち
一緒にいること…
乱雑にノートの端に書き込まれたいろんな要素を、ゆっくり打ち消す。
(俺が一番、大事にしたいのは、どれ?)
机に突っ伏したあと、ばっと起き上がり、机の下で携帯を開く。
そして、メッセージアプリの一番上にある、一番好きな人の名前を、そっとタップした。
*