• テキストサイズ

短編集「俺はもともと結構しゃべる」

第1章 進撃の巨人 エルド・ジン 「金髪のあなた」


きっと金額に折り合いがつかず悩んでいるのだろう。
誰かへの贈り物なのか、眉間にしわを寄せ、真剣な表情で思案している。

「くすっ どなたかへの贈り物ですか?
こんなに真剣に選んで貰えるなんて 頂ける方は幸せ者ですね」
営業トークではなく心からそう思った。
あなたはクシャっと照れたような笑顔を浮かべた後、また悩み始めた。
仕事柄プレゼント探しをしている人はよく見かけるが、ここまで悩んでいる人は見たことがない。

気づいた時にはその横顔に見入っていた。
180センチはあるであろうか。
私とは30センチも違う その顔を見上げながら見つめる。
首の痛みなんて気にならない。
一目惚れだったんだと思う。
こんな気持ちはいつ以来だろう。

あなたは
「ちょっと検討させて下さい。取り置きって出来ますか?」と遠慮がちに聞いてきた。
「もちろんお取り置きできます。次はいつ頃ご来店して頂けますか?お名前もお伺いさせて頂きます」
また来て貰える。そう思うだけで自然に頬がゆるむ。
あなたは落ち着いたさわやかな笑顔で名前を告げ 帰って行った。

「エルドさん・・・」
心の中で呼びかけてみる。
次は客としてではなく私に会いに来てほしい。
そんなことを思いながらも あなたを見送った。

アナは一目惚れ等一度もした事がなかった。
初恋は近所にある花屋の7歳年上のお兄さん。
金髪に緑の瞳。長く伸びた指で道端に咲くどんな花でも素敵に活けてくれた。
小さいころからずっと彼が好きだった。
彼のお嫁さんになりたかった。
なるものだとばかり思っていた。
いつも「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!」と言っていた。
彼も「早く大きくなってな」と笑顔で答えてくれていた。

でも、現実は違った。
14歳のある日、彼が結婚することを知った。
相手は私が知らない大人の女性だった。
彼は私を「女」としては見てくれていなかった。
裏切られた気持ちでいっぱいだった。
10年ほど恋い焦がれた「お兄ちゃん」が、出会って たった1年の女性を選んでしまったのだから。

それから8年。私は恋をしていなかった。
正確には恋が「出来なかった」のだ。

こんな私でもお誘いは何度かあった。
近所の果物屋の息子や兵士も誘ってくれた。
しかし、怖くてたまらなかった。
好きになっても、またお兄ちゃんの様に遠くに行ってしまうのが。
/ 25ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp