第2章 永遠にともに/笠松
まだまだ寒さの残るこの季節、花子は独り帰途を行く。二人で住むアパートは安さを取ったかわりに駅からかなり遠い。家々から香る夕飯の香りに意をくすぐられながら無意識のうちに小走りになってしまった。いつもは花子のほうが帰りが遅いが、今日は特別に幸男のほうが帰りか早い。
「ただいまぁ」
「おう、おかえり」
他愛のない挨拶ですらむずがゆくなる。世の新婚さんはみんなこんなものなんだろうか。
「おおー、おいしそう」
「うまいぞきっと。ほら、早く手洗って来い」
真っ黒の洒落っ気のないエプロンもなんかエロいなんて言ったら後が怖いので花子の心にしまっておくが、花子がにたにたと笑っているのに気付くと、早く、と言わんばかりに手を払った。
「いただきます」
「召し上がれ」
夫婦箸に夫婦茶碗。この前の休みにちょっと無理して外出した甲斐があった。今が食事中でなかったら転げまわっていたところだ。妙に恥ずかしいというかなんというか。今日の晩御飯はショウガ焼きとほうれん草のおひたしとわかめの味噌汁。花子の休肝日のため塩分控えめに作ってある。
「幸、おいしいよ」
「そうか?そりゃよかった」
私の正面で微笑むあなたと私は生きてゆく。病める時も健やかなる時も共に。
「幸」
「なんだ」
「ほんとあんたと結婚してよかった」
力作の味噌汁を鼻に逆流させてむせて花子を睨んでいるところですらい愛おしい。かなり重症だという自覚はある。
「あー、うん、俺も……だって言おうかなって思っただけだにやにやするな!!!!馬鹿!!!!」
冗談だ!と言ってはいるものの、顔は照れからか真っ赤になってしまっている。