第1章 第一話
知念寛の身長は、193センチ。
中学3年生にしてはかなり大柄だった。
しかし身長の割には体重は60キロしかなく、ひょろひょろとした体形をしていた。
前髪に入った白いメッシュと、こけた頬、物静かな性格が彼の体格と相まって、周囲に彼の印象を問えば大抵「不気味」だと返ってくる。
彼自身、そういったレッテルを貼られていることに気が付いていたが、それで特に困ることは無かったので頓着していなかった。
中にはマニアックにもそういった彼に好意を寄せる人間もいるにはいた。
比嘉中テニス部3年には何かと目立つ人間が多く、彼らとよく行動を共にしている知念もまた体格的に目立つ人間だった為、より多数の人の目が向けられていたのである。
そういった中にいれば自然と好意を抱く人間が出て来てもおかしくはない。
けれどそういう人間は大抵こちらにはっきりと好意を向けてくるので、知念には何か物足りなくて、それに応えたことは無かった。
彼にはどこかひねくれた部分があり、そう簡単に手中に落ちるような人間にはあまり興味がなかった。
いわば、自分が好きにならないと、相手を好きになれないタイプだったのかもしれない。
そんな彼の心を惹きつけたのは、何故か、同じテニス部の主将・木手永四郎の彼女だった。
今まで木手の彼女は何人かいたが、その歴代彼女に対してそういった思いを抱いたことはかつてなかった。
しかし今、木手が付き合っている如月美鈴には、木手が彼女に対して抱いているのと同じような感情を知念も抱いていた。
だから今こうやって目の前で想い人が雨の中道端にうずくまっていたら、知念が声をかけるのは当然のことだろう。
「何しとるんばぁ?」
頭上高くから雨とともに降り注いできた低い声に、如月は勢いよく顔を上げた。
ビニール傘ごしに如月と知念の目があう。
うるんで赤い目をした如月の目が知念の心を大きく揺らす。
大きな雨粒が音をたててビニール傘にぶつかってははじけていく。
永四郎と何かあったのか―?そんな思いが知念に沸き起こった。
「知念くん。…あのね、仔猫がね…」
言って如月が目線を落とした先を知念が辿れば、そこにはダンボールの中に敷き詰められた汚れた毛布の上で震えている小さな小さな灰色の仔猫がいた。