第3章 【岩泉 一】こちらはビター仕様になっております
そして私は友人からチョコマフィンの作り方を教わった。
簡単且つ、ボリュームがあるので、きっと岩泉も喜んでくれる。そう思った。
のだが。
「えっと・・これは、どうしたらこうなるわけ?」
バレンタイン当日。
私は友人に教わった通りにチョコマフィンを作って持ってきた。
「どうしてだろう・・。教わった通りに作ったのに・・」
私のマフィンは焦げているだけではなく、形も歪で、お世辞にも美味しそうとは言えない仕上がりだった。
「あぁー、ひろかちゃんの手作りお菓子?及川さんに??」
机の上で頭を抱える私に声をかけてきたのは及川だった。
ウキウキで声をかけてきた及川も私のマフィンを見て一時停止した。
「ひろかちゃん?これは・・一体・・」
「聞かないで。私才能ないみたい・・」
私は顔をあげることなく、及川に手のひらを向けて、これ以上しゃべるなという意味を示した。
「おい、及川っ!また呼ばれてんぞ!」
岩泉の声が聞こえて顔をあげると、岩泉は教室の入口で及川にチョコを渡そうと待っている女子を指差して近づいてきた。
私は慌ててマフィンを隠そうとするけど、すでに遅かったようだ。
「何?これ、お前が作ったの?」
「・・うん。でも失敗しちゃった。ハハ。私にはやっぱり無理だっ・・たん・・」
私がまたおちゃらけて笑おうとすると、岩泉は私のチョコマフィンを一気に口の中に入れた。
「わぁ!!何やってんの!!」
口いっぱいに焦げたマフィンを頬張る岩泉。
及川も心配そうに覗き込んでいた。
「岩ちゃん?・・なんか、バリバリ言ってるけど・・」
岩泉は黙々とマフィンを食べ続け、最後の一口を飲み込んだ後に、手についたチョコをペロッと舐めた。
「ご馳走様」
そう言って、岩泉は笑った。
「次回に期待しとく。まぁ、食わせるのは俺だけにしとけよ?」
「・・バカ」
あんな苦くて硬いはずのマフィンを全部食べちゃうなんて…。
本当、男前すぎて悔しい。
私は目に涙をためて、おちゃらけて見せた。
「期待しといてよね。責任とってよ?」
これが友情なのか、恋なのか。まだ分からない。
ううん。まだ気づかないでおこう。
いつかうまくお菓子を作れるようになったら、岩泉に伝えられるかな。
甘くて苦い、私の気持ちを。
TheEnd
「甘い」「苦い」「友情」「涙」