第5章 【国見 英】何かが足りない
寝ても寝ても眠たい。
欠伸が出るのは脳に酸素が足りないから。なんて聞くけど、そうなると俺はいつも酸素不足。
足りていない。酸素も・・何もかも。
自分の席で頬杖をつきながら、教室を眺める。
楽しそうに学校生活を過ごすクラスメイトをどこか遠目から眺める。
何がそんなに楽しくて笑っているのか。
きっとその理由を聞いたとしても、理解できるかどうかは分からない。
自分だって、バレーをしている時はやっぱり楽しい。
金田一と寄り道したりする時だって楽しい。
けど、何かが足りていない。
そんなことを考えているとまた欠伸が出る。
「国見くん・・ちょっといいかな?」
クラスメイトの女の子から声をかけられ、俺は彼女について行った。
今日はバレンタインデー。恐らくそう言う事だろう。
以前、彼女の友人から何が好きなのかとか質問を受けたことがあったし。
中庭に着くと、彼女の手から手のひらサイズの箱を差し出された。
「国見くんは気付いてなかったと思うけど、ずっと…国見くんのことが好きでした」
俺は鈍感な方ではない。
むしろ敏感な方だ。
ただ、気付いていても顔に出さないだけだ。
彼女の気持ちだって、結構前から気付いていた。
「国見くんがキャラメル好きだって聞いたから…キャラメル味のチョコなの。返事は今じゃなくていいから、受け取ってくれませんか?」
「ありがとう」
俺はそう言って、彼女から差し出された箱を受け取った。
そして彼女に背を向けて校内に入る。
再び欠伸が出た。
脳に酸素が足りない。
何かが足りない。
俺はその足で保健室に向かう。