第1章 【山崎夢】恋し君、願わくは、ハナミズキ。
「はい、ありがとうございました!」
「おう、もう迷うなよ?」
「はい、あ、あの!」
踵を返そうとした先輩を呼び止めると、ちゃんと立ち止まってくれた。
「ん?」
「先輩のお名前を伺っても良いですか?」
そう言うと、あぁ、自己紹介してなかったな!と今気づいたように言われて、この人もちょっと抜けてるのかな?なんて変な親近感が湧いてきた。
「俺は、山崎弘。2年B組だから、何か困ったらいつでも来いよ」
やっぱり快活に笑ってそう言う山崎先輩は、もうヤンキーさんなんかには見えなくて、きらきら輝く大人の先輩って感じに見える。
「私、谷野結寿と言います、よろしくお願いします!」
「谷野な、よろしく。じゃあ、そろそろ行くわ」
「は、はい、ありがとうございました!」
「おー、あ、そうだ」
山崎先輩は少し離れたところで何かを思い出したように立ち止まり、私の方に振り返った。
まだ、何か教えてくれるのだろうか?
「言い忘れてた。谷野、入学おめでとう。じゃあな!」
山崎先輩はそう言うと、手を振って今度こそ去って行った。
入学おめでとう、それを言うためだけに立ち止まって振り返ってくれたの?
そう思うと、じわじわと心と顔が温かくなってきた。
嬉しさと恥ずかしさが心を支配していく。
あぁ、これは…。
落ちちゃったかもしれない。