第1章 【山崎夢】恋し君、願わくは、ハナミズキ。
それから、何分経ったのか。
案の定、私は迷った。
所謂お金持ち学校であるここ、霧崎第一高校は敷地があり得ないほど広い。
都内にあるとは思えない広さと緑の多さだ。
それに加えて施設が充実していて、似たような建物がたくさん並んでいる。
これからここで生活していくのか…何度迷うことだろう。
そんなことを考えながら歩いていたからか、私は、建物の陰から出てきた人影に気付くのが遅れた。
気付いたときにはぶつかってしまっていて、私の体は後ろに傾いていた。
早々に制服を汚すなんて…!
衝撃を覚悟して、私は目を固く瞑った。
「おわっ!?っと!悪い、余所見してた!」
けれど、衝撃は来ず、代わりに上から男の人の声が降ってきた。
そっと目を開けると、そこには背の高い茶髪で短髪で目つきの悪い男の人が私の腕を掴んで立っていた。
うわぁ、いきなりヤンキーにぶつかっちゃった!?
目付けられたらどうしよう!
「おい、怪我とかないか?大丈夫か?」
ヤンキーさんは、少し屈んで私に目線を合わせると、少し首を傾げてそう尋ねてきた。
「えっ、あ、だ、大丈夫です、すみません!」
私はそう言って、とりあえず謝った。
なんか、あんまり怖くはなさそう、かも?
「そうか、なら良かった。お前、新入生か?」
私の言葉に、ホッとしたように表情を緩めたその人は、そう尋ねてきた。
「は、はい、そうです」
「ここ、教室に行く道じゃねーぞ?迷ったのか?」
図星だ。
高校生にもなって、道に迷うだなんて笑われてしまうだろうか。
私は、小さく小さく頷いた。