第1章 【山崎夢】恋し君、願わくは、ハナミズキ。
柔らかな日差しの中、まだ少し風が冷たい、春の晴れた日。
街の所々に見える桜の木はまだ蕾が多く残っている。
麗らかな春の日、と言うに相応しい今日、私は高校生になる。
いつも仕事が忙しい両親はやはり今日も忙しいらしく、入学式には来れないそうだ。
代わりに来るという叔母夫婦は学校に直接来るらしい。
優しい親類に囲まれて、寂しさを感じることなく成長できたことには感謝しなければと思う。
普段ならそんなこと考えないのだけれど、高校生になるからって、少し頭を使ってみちゃったり。
ふと、顔を上げると目に入った時計は、そろそろ出発の時間を指している。
私は、既に両親が出勤した後の誰もいない家に、静かに行ってきます、と言い残して、学校に向かって歩き出した。
学校への道は受験の時も通ったし、何度も確認して迷うことはなかった。
少し方向音痴の気がある私なので、何事もなく学校にたどり着けてホッとする。
けれど、問題はここからだった。
少し早めに着いた学校には人は疎らで、この中を1人で教室まで迷わずにたどり着ける自信がない。
とはいえ、踏み出さないことにはどうにもならないので、私はよし、と気合いを入れて門をくぐった。