第8章 Birthday Night ※
「腰、痛いの。それに脚も少しガクガクする」
「悪ぃ、激しくしすぎた」
内緒話をするように囁きあう。
クマが残っているとはいえ、しっとりと潤う肌と艶やかな唇。昨夜どんな事があったのか、わかる人にはわかるだろう。
「また璃保にキスマーク突っ込まれちゃう」
「俺、母さんに突っ込まれた」
「え、なにを」
「背中のアザ」
「…あたし、何かした?」
「踵で思いっきり蹴った。してるときは気にならなかったが、起きたら結構痛てぇ」
「うそ、それは本当にごめん」
夢中になりすぎていて蹴ったことなど覚えていなかった。
凛の身体には情事を想像させる痕は絶対に残してはいけないと思っている汐。
迂闊だったと反省する。
「大丈夫だ。ベッドから落ちてアザになったって言っておいたから」
「凛くんのお母さんの中であたし、寝相最悪な彼女になったよね絶対」
「あばたもえくぼだろうって笑ってたぞ」
あの母親の笑みは絶対〝理解〟していた。
そのことは汐には黙っておこうと凛は口を噤む。
「お、席空いたぞ。座ろうぜ」
「うん」
電車が岩鳶に到着して、乗客が半分ほど降りていった。
空いた席に座ると、凛は汐の肩に頭を預けた。
「寝るの?」
「いや。寝過ごすといけねぇから寝ない」
「そっか」
「汐」
「ん?」
「好きだ」
「…あたしも。大好き。誕生日、1番にお祝いしてくれてありがとう」
汐の手に凛の手が重ねられる。
電車の振動と、凛のぬくもりが心地よい。
お互いなにも喋らず、幸せを味わう。
4月22日。18歳の誕生日。
汐にとって一生忘れられない誕生日になった。