第8章 Birthday Night ※
「おいっ、汐っ!おっせぇよ!遅刻すんぞ…っ!」
「ちょっと待ってよ凛くん…っ!」
揃いともとれる白い制服に身を包んた凛と汐は朝から走っていた。
駅はもうすぐそこ。
通勤や通学で利用する人が多いにも関わらず、20分に1本しかない電車。発車するまであと3分を切った。
汐の手をぐいぐい引っ張りながら走る凛。それについていこうとして足をもつれさせる汐。
バタバタと騒がしく駅に到着する。電車の接近を知らせるアナウンスが鳴り響いたと思ったらもうホームに侵入してきていた。
ICカードで改札を抜ける。そのタイミングで扉が開き、ふたりは無事電車に乗りこんだ。
「ギリギリセーフだな…」
「だね…」
半駆け込み乗車という迷惑極まりない行為に反省しながら凛と汐は胸をなで下ろす。
この電車に乗り遅れたら遅刻確定だった。
外泊の翌日の遅刻は今後外泊禁止になりかねない。
肩で息する汐を庇うように凛は立った。
丁度通学ラッシュなのだろう。周囲は制服姿の乗客で溢れている。
「岩鳶の生徒、多いな」
「この時間だとそうだね」
チラチラと視線を感じる。
彼らからすると、鮫柄とスピラノの生徒は珍しい。
見慣れぬ制服のカップル、しかも美男美女。
そんなふたりが半駆け込み乗車をしてきたのだから気になるのだろう。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよー。凛くんなんでそんなに元気なの?」
「元気じゃねぇよ。眠過ぎて立ったままでも寝れそうだ」
結局昨夜は何時に寝たのだろう。凛も汐も睡眠不足。
だから今朝は少し寝坊してしまった。
さらに、凛の実家を経由して駅に向かうと急いでも時間ギリギリになってしまった。
「凛くん走るの速すぎない?」
「俺が速いんじゃなくて汐が遅いんだろ」
「そんなにはっきり言わないでよー」
悪ぃ、と謝りながら凛は汐の頭に顎を乗せた。
「絶対思ってないでしょ」
「相変わらずちっせぇな」
「答えになってないし誰がチビよー。ジャンボ凛くん」
「意味わかんねぇよ」
顎をどけて汐の顔をのぞき込む。
指先で目の下を撫でながら頬を包んだ。
「クマ出来てんぞ」
「凛くんも」
いたずらな笑みを浮かべながら汐も凛の目の下を撫でた。
お互い昨夜の余韻が抜けきっていない。
キスをしたい衝動に駆られるが、場所を弁えてそれはしなかった。
かわりに人混みに紛れてこっそり腰を抱く。