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Affectionate Photographs

第4章 硝子瓶の金平糖 vol.1


【待て、ができないリスのはなし】


「凛くんちゅーして?」
11月の終わり、吹きつける風が冷たいからか、汐の頬は淡く赤く染まっていた。

「ん...」
ひんやりとした凛の手が汐の頬を撫でた。
頬は紅色をしていても熱を持っているわけではないから凛の手はとても冷たく感じた。
いつもと変わらない赤を見つめて汐は口を噤む。

「...」
「...」
見つめ合い、沈黙。
頬を撫でる風が冷たい。いつもだったらもう唇を合わせているというのに、今日の凛は微動だにしない。

我慢の限界、と汐は凛の襟をつかんで引っ張って強引にキスをした。
寒い中背伸びをしてふくらはぎが攣りそうになる思いの中、汐は唇を離した。

「お前、少しくらい待てよ」
「待てません」
ムッとした顔で咎める凛に対して汐はむくれる。
その柔らかい頬を凛の冷たい手が包み込んだ。

「しつけのなってねぇ子リスだな」
「リスにしつけなんていりませーん」
わざと汐は拗ねてみせた。
その様子に凛は少しだけ表情を緩めると、おもむろにポケットからあるものを取り出して個装を破いた。

「ほら、リスはこれでも食ってろ」
そういって凛は細長い棒状のそれを汐の口の中につっこんだ。

「なにこれ?」
「リス用のかじり木」
「かじっ...、千歳飴?」
凛が汐にあげたのは千歳飴だった。
淡紅色で優しい風味を汐は舌で感じた。

「そうだ。部活のやつにもらった」
「そっかー。もう過ぎちゃったけど七五三シーズンだったもんね」
千歳飴を咥えながら汐は言った。
そしてお互いの七五三の話をしながら11月の夜道を歩いていった。

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