第1章 東京から来た男の子
その日の帰り、紫原はあたしをカラオケボックスに連れ込んだ。ここならだれにも聞こえないから、と言ってドリンクバーのジュースをごくごく飲み始めた。
「オレの病気の話すんね」
紫原の家系は、代々特別成長が早く長身のものが生まれるようになっているらしい。
けれど、それに比例して本能も大きくなる。
大体はそれを食欲で抑えて成長し、そのうち恋人を作り欲求をそれで満たすようになれば異常な量の食事を必要としなくなるという。
「変な病気でしょ」
「……初耳だわ」
「利用されるのが怖くて、なかなか言えないんだ。同じキセキでも、赤ちんしかしらない」
「誰よそれ」
「オレの中学のバスケ部の部長」
「へえ。強いんだっけ」
「そうだね~」
あまり関心なさげに紫原はジュースを飲んでいく。
「オレは別にバスケが好きなわけじゃないけど、バスケで結果を出すことによって病気を理解してくれる人が増えるから、やってんの」
「ふうん」
「、オーダーお願い。チョコレート盛り合わせとパンケーキとビッグパフェ」
「ああ、うん」
あたしは言われるがままにオーダーパネルをタッチする。
「オレは特別ほかの家族よりおっきーから、しかたないわけ。女遊びに走るわけにもいかないでしょ?」
「……そりゃね」
あたしはウーロン茶をちびちび飲んでいる。
「あ、も少し食べていいよ」
「ど~も」
さっきの話を聞いた後では、もらう気もうせるんだけど。
「せ~つ~が来るまでは、こんなのもなかったんだけどね」
ぶっ。あたしはお茶を吹き出す。
「……紫原、そういう事は女子に言わないほうがいい」
「なんで?」
本気でキョトンとした顔をして紫原が首をかしげる。
「なんででも!」
「ん~がそう言うなら言わない」
「はい、いい子です」
「えへ~」
あたしの言葉に嬉しそうに紫原。
嫌味なんだけど!
……なんか調子狂うなあ。
するとオーダーしていたパフェたちがやってきた。
「わあ、おいしそう~」
紫原がギラギラした目でそれらを食べていく。
「カラオケ入れていい?」
「どうぞ~オレは歌わね~からだけで歌ってて~」
「は~い」
言われるがままにあたしがどんどん歌を入れていって、その日は終わった。
最終的にどんどん増えていったお菓子のオーダーは、1万を超えた。