第8章 【団栗ころころ】
ああ、いやだな。
僕はなんだってこんな──
昔のことなんか思い出したって
何もいいことなんてないのに。
カツン
「……?」
音の鳴るほうへ振り向く。
なにも、ない。
いつもと何ら変わらない
薬棚がそこにあるだけ。
カツッ コツン
「あーもう、何だっていうんだよ」
どこからか聞こえてくる
なんとなく聞き覚えのある音
引き寄せられるようにして
立ち上がって、ずるりと
君との繋がりを抜き取った。
カツ、コツッ コツンッ
音はまだ鳴り止みそうにない。
天板から吊るした薬棚を
ごそごそと漁ってみる。
紗英を失ってから一層
怠惰になった僕に代わって
薬草なんかの管理は
桃タローくんがしてくれてる。
そんな訳で意外にも
棚は綺麗に片付いてるものだから
探していた物はすぐに見つかった。