第6章 【パンチヒーロー】前編
「さて……では行きましょうか」
慌てて逃げ出していった
男が去った方角を見やって、
鬼灯様は優しい声を出した。
まるで別人だ。
さっきまでの彼は──
いや、きっとあれが
本来の彼なのだろうけど。
「……と言っても、そのまま
ご自宅に帰す訳にもいきませんね」
困ったように首を傾げる彼。
その視線の先を追うと、
見下ろした先には
血と泥で汚れた私。
ニットセーターはそこら中が
解れていて、ひどい有様だ。
これでは親が卒倒してしまう。
「来てみますか?」
「へ……?」
「私の家へ。地獄ですが」
ちょうど、今から
帰るところでしたし
嫌なら無理にとは。
そう付け加えた鬼灯様は
鬼装束の懐から、
小さなライターを取り出した。
【六ノ章】
パンチヒーロー前編___終